花房東洋「21世紀の神話」(昭和43年)

 はじめに
 21世紀は、明日であると共にもはや今日の問題である。ある意味で21世紀は現代の地球の中に受胎され、胎児として成長しつつある段階である。そして、遺伝形質も与えられ、生物進化のあらゆる発達を経過しつつある時期である。
 ここにやがて出生以後の心身の基本的体質が形成されるのであり、今日にこそ21世紀の運命が決定されつつあるといえよう。
 母なる20世紀が不健全であり病的ならば、生まれ出ずる子のいかにあわれな運命をたどらねばならぬかはあまりに明らかである。
 かかる時、世界の現状は自由圏と共産圏の対立、人口増加と食料不足の矛盾など人類的危機をもたらす要因を数多く内包しているのである。それらの要因をなくし、全地球的立場をもって未来的世界を構想し、実現するかが今日の最も重要で緊急な課題である。
 21世紀への道は決して平坦なペーブメントではない。しかし、人間は今こそ、国家を越え、また世界という広さの意識にとどまらず、ただちに地球そのものと密着した球体感覚を自我意識の本質として捉えていかなければならない。それにより21世紀への生存のパスポートが与えられる条件となるであろう。

 世界権威の確立
 近代文明の出発なる19世紀が蒸気力の時代であるとすれば、20世紀は石油力の時代となり、21世紀は原子力の時代となるであろう。しかし、ともすれば20世紀人は原・水爆や宇宙ロケットをさながら幼児の玩具の如くもてあそび、真のその活用の方法を自覚せず、なお破壊にのみ興味をもつという児童心理の域を脱しえない危険な状態にある。
 21世紀の地球平和を実現するためには、諸国家の核兵器保有を許さず、それをより高い次元において統合する世界権威の確立を必要とする。
 今日の国連の組織が未だ十分な地球的秩序を確立するには至らず、米・ソらの核兵器保有国の強大な戦力を許して、それらの意志を制約することの不可能な状態にあっては、決して真の世界権威とは認めがたい。
 ここにまず、地球的世界憲章とも云うべきものを制定して、これまでの国際法に代る、より高度な地球法を設けるのである。これは地球の管理をなす法であり「地球管理計画」の基本法となるものである。
 次に地球の平和を達成するに足る有力な軍事力たる「地球平和軍」を組織し、これを世界権威のもとに帰属せしめ、その指令によって行動する。そこには、各国の核兵器・ロケットその他の兵器をすべて統合して、一国の勝手な地球破壊戦争を許さぬものとする。
 さらに世界金融として、地球建設のために必要な資金を融通して、真の「地球建設財団」の機能を十分に活用せしめるものとする。この財団の基金は各国の軍事費がほとんど削減されて、それがこの基金として運用されるのである。
 また、すべての戦力や軍事生産や原子力生産などが戦争でなく地球文明建設のための国土開発計画のために統一的に活用されるものとする。
 かかる地球憲章なる、法と秩序を乱すものに対する地球裁判所をつくり、その正しい司法的役割を果たすのもとする。

 人種・民族・イデオロギーの問題
 現代における自由圏対共産圏の問題は、その競争的共存の過程をとりつつ、やがて21世紀にあっては、その両者のイデオロギーの対立をいかに綜合的に止揚するかの問題がある。それには唯物弁証法と自由民主主義の二つがともに、それぞれの経済力を基礎にしているが、その経済力の基礎なるものが、一つなる地球であり、この普遍的な地球の相の下に立つならば、やがてこの両者の対立の壁は、万里の長城の如く過去の遺物となり、国家連合は、地球的な管理をなす統合的な機構を必然に実現することとなろう。
 しかし、人間の生理的差異によって、人種問題はおそらく今後の地球的世界にあっても、容易に解決しがたい条件をもっている。しかも、これに風土的な永い影響によって生じた民族のあり方も、さらに複雑な社会的矛盾を生ずるものとなる。これは、世界デモクラシーが発展すればするほど人種的偏見は否定され、平等な生存権がいよいよ公正に認められるにつれて、これをいかに異民族として差別することの、法的に不可能となることを知るようになる。
 かつて異邦人に対する反感や誤解が法的に否定され、いわゆる異端者に対しての排撃が信仰の自由なる、宗教的寛容によって拒否されたように、やがて、人種的民族的偏見も、人類的地球愛の光の下に明るく解消、融和される日の来ることも遠くないであろう。

 世界都市の問題
 かつて人類は、原始時代に氷河を逃れたり、緑草を求めたり、鳥獣を追ったり、潮流にのって、はるかな地域にまで移動した。やがて農耕時代となり、都市の建設・大国家の出現となり、人々は土地に定着しついに農奴として、移動の自由が禁止された。
 それが中世から近代国家の社会生活までに及び、他国への旅行も制限され、なお今日における移動の不自由さになっている。
 21世紀に至っては、もはや人間の定着性は、かつての封建領土内の隷属的人民の如く時代錯誤のものとなり、生存の場は、これまで古い都市を離れて、続々と全地球的に建設されることとなる。
 これはこれまでの固定的な歴史的都市と異なり、一種の移動する都市なる性格をもち、必要に応じて、自由に新しく計画的に建設される。古代都市や封建都市が幾世代の埋没の上に造られたのに比し、未来の世界都市は、むしろ転々と適地に移動成長することによって、全地球的に文明が交流し、世界的な交通連絡が有利となるようになる。
 これが、真の人類的和解のなされる共通の広場の開発であり、この世界広場なるコスモポリスの建設によって、石油コンビナート等に見る公害を解決し、河川の汚れやスモッグの悩みや、交通戦争の恐怖を与えるマンモス都市の悲劇から超越することができるようになるのである。
 また、地球上の気象や、湿度や温度をはじめ、台風.・雨量・日照の問題などについて精密な天候の測定を気象衛星によって全地球的に実施し、原子力によるコントロールも実現されることとなる。
 ここに地上は至るところ生存に最適となり、また、大規模な未開発地域の利用をなして全地球的文明を自然の限りない美と幸いの中に融和せしめることとなるのである。

 未来女性の問題
 これまで全く家事的な多忙に明け暮れして、ほとんど何らの自主性も持ちえなかった近代女性は、再び原始の女性は太陽であったとの強いあこがれをもって未来的な前進をはじめようとする。
 しかし、未来の女性のあり方は、女性が男性との同権を主張するあまり、ただ男のなす業をわれも負けじと模倣し競争するならば、それこそ時代錯誤のあわれな存在となるであろう。
 ある意味で21世紀は、平和な文化的世界の典型として、わが平安朝の女性的天才の自由なる表現をなした時代的様相に似たものとなる傾向を示すであろう。
 いわゆる才女と称される彼女らは、決して男性を模倣していないばかりか、むしろ男性をして遂に彼女らを模倣せしめて、紀貫之の「土佐日記」を創作せしめたほどであり、かの「源氏物語」にいたっては日本はおろか全世界にあっても、それに比べるべきものを見出しがたいものと言われる。
 かかる教養ある女性文化こそ、次に来る文明の母胎をなすものであり、ここには男性のなし得ない独特な美的世界の開花を示すものとなる。

 21世紀の文明原理
 21世紀の人間生活において、衣食住はもはや何ら不便なものはなく、服装は流行の波のままに自由に安価に着用され、その材料はますます化学的作用によって生産され、つきるところがない。また住居は、いかにも人間的な空間の中に、光と緑のシンフォニーをあくなく吸収する。さらに地球こそが人類の住居となり、旅行はもはや一つの庭の中の散歩として愉しまれるものとなる。
 かくて、人間の愛国心の偏狭さはいつしか失われて宇宙的地球時代には、地球愛こそが普遍的人間感情となる。
 それは、知性と意志と感情の美しく調和した交響的情緒の世界であり、人間差破壊はかかる地球的世界の象徴としての綜合芸術を表現するものとなる。
 もし、これらの統合性を失って不具的な一面的発達をなす場合、たちまち人間疎外の恐るべき地獄的光景をあらわして運命的な陥没を必然化するであろう。
 このためには、人間そのものを人類的な立場においてとらえる、綜合的な人間学を研究し、人間内部の神秘な深層心理の分析をなすと共に真の人間における霊性や神性を自覚しなければならない。
 自然を征服し、宇宙を支配するという西洋思想は、宇宙時代にあってますますもの狂わしく駆けめぐり、ついに太陽に焼かれる、あわれなギリシャ神話の子のような運命に会うかもしれない。
 東洋にあっては、むしろ自然そのものと不二一体となるところに真の平安があり、幸福があると悟るのである。この極大の果てに極小があり、無の中に一切があり、見えざるものこそ見えるものの根源とする理論物理学の究極に来る霊性の宇宙観こそ21世紀の文明原理となる。

 おわりに
 ここに、21世紀の神話なる地球文明は爛漫と開花し、かつてユートピアとして夢想された地上楽園の理想は今や人間自らの知性と技術と愛によって実現されるのである。そこには、宗教的な光の世界が見事に地球をめぐって、人間の社会の中に反映し、〝まんだら〟の如く荘厳化されるのである。もし、これを単に空しい幻想として否定するならば、おそらく世紀末的ニヒリズムは原爆の悪魔の火と共に地球を地獄の門につきおとすであろう。
 そして、地球を骸骨の丘と化し、さながらゴルゴダの上の十字架で最後の言葉を放ったキリストの様に─神よ神よ何故に私をすて給うや─の嘆きに沈む20世紀の黄昏を迎えることになるであろう。
(随刊「パック」第12号、昭和48年12月1日発行より。本論は昭和43年、花房東洋が21才の時、山中湖畔の老師指導のもと編んだものである)

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